ビジネス現場にいて、「怒り」や「イライラ」がわいてしまうことは自然なことです。
しかし、その感情に振りまわされた言動を取ってしまうと、「パワハラ容疑者」となる恐れが高まります。
そこで失敗しない為に、「怒り」がわいても怒らない為のメソッド(コツ)をご紹介します。
メソッド① 深呼吸をして「6秒」待つ
「怒り」が生まれる仕組みは、『「怒り」のメカニズム ~「怒り」が生まれる仕組みとは~』でご説明しました。
まず「一次感情」(ネガティブな感情)が芽生え、そのストレスが許容範囲を超えると「二次感情」(怒り)を生み出す流れになると考えられています。


この流れを脳科学の観点で見てゆきますと、まず、「本能」をつかさどる大脳辺縁系で「怒り」が生じます。
その後、「理性」をつかさどる大脳新皮質にある前頭葉で抑制するという構図になっています。

実は、「怒り」が生まれた後、前頭葉が働くまでには少し時間がかかります。
ある実験では、「怒り」が生まれてから前頭葉が活発に動きだすまで、4~6秒かかるという結果が出ています。
つまり、瞬間的にイラッとなった後、6秒間こらえてみると、気持ちが落ち着いたり、冷静さを取り戻しやすいということになります。
イラッとなった瞬間に「怒り」の言動を取ってしまうと、相手も同様に反応し、最悪の場合、売り言葉に買い言葉という悪循環を生む恐れがあります。
また、余計なことを言ってしまう可能性も高まり、人間関係がこじれる原因にもなるでしょう。
イラッとなった直後の6秒間は意外と長く感じるかも知れませんが、グッとこらえて、「意識的に6秒をかぞえ」たり、「大きく深呼吸して」みたりしましょう。
「怒り」のピークさえ乗り越えられれば、冷静に対応できるようになり、パワハラ行為を行う危険性も下がります。
メソッド② クールダウンする為に一度、現場から離れる
「怒り」の感情が生まれてしまった場合、クールダウンする為に一旦、その場を離れることも有効です。
スポーツの試合などで悪い流れを断ち切る為、監督が「タイム」を取る場面を目にしたことがある方も多いかと思います。
ほんの少しの時間でも、気持ちがスッと切り替わり、冷静さを取り戻せるものです。
アンガーマネジメントにおいても、「怒り」をコントロールする為の「退却戦略」は有効と考えられています。
『メソッド① 深呼吸をして「6秒」待つ』で触れた、6秒ルールにとっても有効です。
ただ、その場を離れる際の注意点としては、いきなり何も言わずに立ち去ってしまうと相手に不信感を与えてしまいますので、一言添えて、戻りの予定時間も伝えた上で、現場から離れるようにしましょう。
メソッド③ 冷静さを保つ為、自ら録音したり、第三者に同席してもらう
「怒り」の感情が生まれても、客観的な視点をあれば、意外と冷静になれるものです。
想像してみてください。
誰かと二人きりの部屋で、相手の言動にイラッとしてしまった場合、第三者の視線がなければ、うっかり勢いで、いらないことを言ってしまいそうではありませんか?
ましてや、その相手が自分の部下や後輩など目下の人であれば、なおさら、簡単に熱くなって、感情のタガが外れてしまいがちです。
しかし、その場に第三者がいたり、その場の状況が後から他の人に知られる可能性がある場合、例え、イラッとしても、ふと冷静になれると思いませんか?
『メソッド① 深呼吸をして「6秒」待つ』でも触れましたが、「怒り」の感情がわき上がった後、理性的に対応できるまで少なくとも6秒ほど耐える必要があります。
ただ、その時間を上手く自分でコントロールできない可能性もあります。
その為の予防策として、最初から第三者(チームメンバーなどの関係者等)に同席してもらったり、ボイスレコーダーを持参すると良いでしょう。冷静になれます。
特にボイスレコーダーでの録音は、相手との話し合いでこじれた際、お互いの言い分が実態と乖離しないよう、確かな証拠としても使用することができます。(録音していることを意識すると、意識的・無意識的に、過激な言動を控えるようになりますので効果的です)
録音する際は、最初に一言添えて、合意の上で行いましょう。
メソッド④ 心の中で実況中継し、現状を客観視する
「怒り」の感情が生まれてから、気持ちが落ち着くまで、6秒間が目安となることを『メソッド① 深呼吸をして「6秒」待つ』でお伝えしました。
ただ、深呼吸をしながら6秒間こらえる方法は、体感的に長く感じてしまう場合があるでしょう。特にカッときた場合など、わき上がる感情を抑えることが難しいと感じる方が多いのではないでしょうか。
そんな時、まずは今の状況を単純に自分自身で実況中継してみることが有効です。
実況中継と言っても、問題の原因を追究する訳ではありません。問題点に意識が集中してしまうと、収まるものも収まりません。むしろ、自家発電し、「怒り」が加熱するばかりです。
この場合、自分自身の行動や置かれている状況を客観的に、心の中で実況中継してみるのです。例えば、「立ち上がった時に自分の右足が机の脚に当たったようだ」「書類がエアコンの風に吹かれてはためいているようだ」といった感じです。
怒りのピークは6秒程度ですので、実況中継に集中することで意識がそちらに向き、怒りのピークをやり過ごすことができます。
その後、落ち着いて冷静になったら、問題の原因に目を向け、対策や改善案を考えてゆけば、感情的にならずに次へ進むことができます。
メソッド⑤ 「今、ここ」に意識を向ける
私たちの意識は、過去・現在・未来、どこにでも向くことができます。
今、目の前にない状況であったとしても、以前の出来事を鮮やかに思い出すことができますし、将来起きるかも知れない出来事に想像を膨らませることも容易です。
その為、「怒り」の感情が生まれた際、今回、相手の言動の一点だけが問題であるはずなのに、「こいつはあの時も別の問題を起こした…」「こいつのせいで、この重要なプロジェクトが遅れるんじゃないか…」などと考え始め、「イライラ」が膨らんで、爆発してしまう事態も起きかねません。
そうなると、パワハラ事案まっしぐらです。
そのような事態を避ける為、また、問題点をずらさない為、「今、ここ」だけに意識を集中させることが重要です。
『メソッド④ 心の中で実況中継し、現状を客観視する』に近い内容ではありますが、今、この場所のことだけを考えましょう。
今、目の前にあるものに目を向けて、自分自身の意識を「今、ここ」に繋ぎとめるのです。
その考え方を「グラウンディング」と言います。グラウンド(Ground/地面)から由来する言葉で、意識を自分自身の足元(地面)に注目させ、繋ぎとめることを指します。
「会議室の窓が開いている」「今日の会議参加者は6人で、4人が男性だ」といった感じで、自分自身の意識をその場に留め置き、かつ、不必要な「イライラ」の膨張を防ぎます。
そして、その間に怒りのピークをやり過ごしましょう。
メソッド⑥ 「事実」と「推測」を明確に分けて考える
私たちは、自分自身で思っているよりも「思い込み」で物事を捉えています。
例えば、次のような場面を想像してみてください。
あなたの部下が、オフィスで始業時間になっても現れず、デスク上のパソコン・モニターも真っ暗なままです。
そこであなたは「連絡もなしに遅刻か!」とイラッとし、10分ほど経ってから普通に現れた部下に対して、ついキツイ口調で「遅い! たるんでるぞ!」と頭ごなしに怒鳴ってしまったとします。
しかし、実は、その部下は始業前にオフィスに到着していたけれど、たまたまアポイントメント時間より早く到着されたお客様をオフィス・エントランス前で見かけ、会議室へお通ししてから自席へ向かっていました。その場合、会社としては良い対応をしたにも関わらず、事情も聞かれず、いきなりみんなの前で叱責された部下としては、やりきれない気持ちになることでしょう。
このような状況が続くと、あなたは理不尽なことですぐに声を荒げるパワハラ上司としてのレッテルを貼られてしまいます。
そうならない為には、「事実」と「推測」を明確に分けて考える必要があります。
カッとなった時こそ、ぐっと踏みとどまって、「それは本当に事実なのか?」「それとも、自分の推測(思い込み)なのか?」と、ひとつひとつ冷静に、事実確認を行いましょう。
そして、事実確認を行った後に、その結果に伴い、適切な対応を考えて、実行してゆきましょう。
メソッド⑦ 「怒りの原因」に固執し過ぎないよう、イメージ法を活用する
もし、あなたが「怒り」の原因となった出来事について考えているうちに、対策について冷静に考えるどころか、「怒り」がエスカレートしてきてしまった場合、気持ちを切り替えることが難しくなるかも知れません。
そのような時は一旦、「思考停止(ストップシンキング)」することが有効です。
この手法は、「怒り」の感情がわき上がってきたら、自分自身の中で「ストップ!」と唱えて、思考することを緊急停止させようとするものです。
ただ、何も考えないということは意外に難しい為、思考停止する為の補助的な対応方法として、「イメージの力」を活用するのも有効です。
具体的な方法としては、
- 頭の中で「真っ白な紙」をイメージし、頭の中を具体的なものでいっぱいにする(他の色の方がイメージしやすい場合、単色であれば、白以外でも可)
- 「ゴミ箱」を思い浮かべ、「イライラ」の原因をゴミに見立てて捨ててゆく
といったやり方があります。
メソッド⑧ 自分自身に落ち着かせる言葉をかける
イラッとした時、すぐにカッとした言動を取らないようにする方法のひとつとして、自分自身を落ち着かせる言葉がけを自ら行い、暴走することを踏みとどまるというやり方も有効です。
「コーピング・マントラ(コーピング=問題に対処する/マントラ=呪文)」と呼ばれる方法で、「この言葉をかけてもらえたら落ち着く」という短い言葉をつぶやいたり、頭の中で反芻する方法です。
「大丈夫」や「何とかなるよ」といった簡単なワードで良いのですが、イラッとしてから考え始めても遅いので、予め、自分自身にとって落ち着く効果のあるワードを探して、決めておくと良いでしょう。
ちなみに、自分自身がクールダウンできるならば、前向きなワードでなくても良いと思います。誰かのファンであれば、その芸能人の名前でも、また、ペットの名前でもOKです。
まとめ
「怒らない為のメソッド」について、まとめ情報は以下の通りです。
この記事のまとめ
- ビジネス現場で「怒り」や「イライラ」がわいてしまうことは自然なことだが、その感情に振りまわされると「パワハラ容疑者」となる恐れが高まる。
- 「怒り」がわいても怒らない為のメソッド(コツ)は以下の通り。
- 深呼吸をして「6秒」待つ
- クールダウンする為に一度、現場から離れる
- 冷静さを保つ為、自ら録音したり、第三者に同席してもらう
- 心の中で実況中継し、現状を客観視する
- 「今、ここ」に意識を向ける
- 「事実」と「推測」を明確に分けて考える
- 「怒りの原因」に固執し過ぎないよう、イメージ法を活用する
- 自分自身に落ち着かせる言葉をかける